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富山地方裁判所 昭和40年(ワ)27号 判決 1965年8月19日

原告 細川政市こと黄華秀

被告 白井昭雄

主文

一、被告は原告に対し、原告が別紙目録<省略>記載の不動産につき、昭和三十七年五月七日停止条件付売買契約を原因とする富山地方法務局婦中出張所昭和三十七年七月二十日受付第七七六号の所有権移転仮登記に基く本登記をすることを承諾せよ。

二、被告が訴外阿部利夫に対する富山簡易裁判所昭和三十九年(ロ)第一六九号仮執行宣言付支払命令に基き、同年九月十五日別紙目録記載の不動産に対してなした強制執行は、これを許さない。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、当裁判所が本件について昭和四十年二月二日になした強制執行停止決定を認可する。

五、前項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項ないし第三項と同旨の判決を求め、その請求原因として

一、被告は、訴外阿部利夫に対する主文第一項掲記の債務名義に基き、本件不動産につき富山地方裁判所に対し強制競売の申立をなし、昭和三十九年九月十五日競売手続開始決定があり、同月十六日強制競売申立の登記がなされた。

二、しかしながら、本件不動産は原告の所有に属するものである。すなわち、本件不動産はもと訴外阿部利夫の所有であつたところ、昭和三十七年五月七日原告は右訴外人との間に、同人が原告に対し負担していた金銭債務を消滅せしめる目的で、農地法第三条の規定による許可があつたときは所有権が移転する旨の停止条件付売買契約を締結し、同年七月二十日右趣旨の所有権移転仮登記をなした。しかして右契約に基き、原告を譲受人、訴外阿部利夫を譲渡人とする農地法第三条の規定による許可申請に対し、昭和三十九年十月二十一日付をもつて富山県知事の許可があつたので、原告はこれにより本件不動産の所有権を取得するに至つたものである。

三、よつて原告は被告に対し、前記仮登記に基く本登記をなすについて被告の承諾を求めるとともに本件不動産に対する強制執行の排除を求めるために本訴に及んだ。

と述べた。立証<省略>

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項中、本件不動産につき原告主張の仮登記がなされている点は認める、農地法第三条の規定による許可に関する点は不知、その余の部分は否認する。

三、原告が主張する本件不動産についての農地法第三条の規定による許可申請手続は、農地の所有者たる訴外阿部利夫の意思に基かずして同人の父親が無断でなしたものであるから、これに対する富山県知事の許可は不成立である。

また、金銭債務を消滅せしめるために、農地法第三条を適用しての所有権移転仮登記はそれ自体無効であつて、債務不履行を停止条件とする代物弁済契約に基く停止条件付所有権移転請求権保全の仮登記をなすべきものである。

四、従つて、本件仮登記に対する原告の本登記請求権は発生せず、被告の強制競売申立に対抗しえないものである。

と述べた。立証<省略>

理由

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二、証人阿部常蔵の証言及び成立に争いのない甲第一、第二号証によれば、本件不動産(農地)はもと訴外阿部利夫の所有であつたところ、これについて昭和三十七年五月七日右訴外人と原告との間に、農地法第三条の規定による許可があつたときは所有権が移転する旨のいわゆる停止条件付売買契約が締結され、同年七月二十日、その旨の所有権移転仮登記がなされたこと(右仮登記に関する点は当事者間に争いがない)、右売買当事者よりの前記許可申請に対し、昭和三十九年十月二十一日付をもつて富山県知事の許可があつたことを認めることができ、これに反する証拠は存在しない。

右によれば、原告は訴外阿部利夫との間の売買契約及び知事の許可(法定条件)により本件不動産の所有権を取得したものである。これに反する被告の主張は失当である。

そうすると、前記仮登記後の強制競売申立人たる被告は、原告の仮登記に基く本登記を承諾すべき義務がある。よつて原告の被告に対する承諾請求は理由がある。

三、すすんで、原告の所有権を異議理由とする第三者異議の請求について判断する。

ところで、所有権取得につき仮登記を有するにすぎない者が、本登記を経ずして第三者異議の訴を提起しうるかの問題については、これを消極に解する見解もあるが、当裁判所としては、仮登記権利者(原告)より執行債権者(被告)に対し、仮登記に基く本登記の承諾請求に併せて第三者異議の訴が提起され、同一の裁判所において同時に審理された結果、口頭弁論終結当時の状態において、本登記の承諾請求が認容されるべきことが明らかな場合には、第三者異議の請求をも認容すべきものと解するのが妥当な見解であると考える。けだし、これにより仮登記権利者の地位を適切有効に保護することができ、反面、仮登記の存在を予知しうる執行債権者を不当に害することもなく、訴訟実務の実際に適した妥当な解決が図られるからである。

そこで本件についてこれをみるに、被告に本登記についての承諾義務があることは、すでに前項において判断したとおりである。そうすると原告の本件不動産に対する所有権を異議理由とする第三者異議の請求もこれを認容すべきものといわなければならない。

四、よつて原告の本訴請求はすべて正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、強制執行停止決定の認可、仮執行の宣言につき同法第五百四十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋重雄)

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